そんな美咲は庭の奥、東側の薄暗い先を見ると切なそうに瞳を落とした。
心は別な処にある。
美咲は美咲の心の中にある景色を、少女特有の淡い幻夢のように眺め見ているのだ。
叔父の和樹が住んでいた小林家は、今朝から慌ただしい。
邸宅は代々が引き継いできた寄棟の木造家屋で、石組のなかなかに詫び寂びの利いた庭がある。
七年前から和樹はこの家で書生をしていた。
これまでもふらりと旅に出ては、しばらく帰って来ないと言うことがしばしばあった。
しかし今度は三年間音沙汰がないと言うので、渡邊と小林の家は捜索願を届け出た。
それから半年が過ぎたが和樹の行方は一向に明らかにならない。
丁度その頃、小林家の若夫婦に子ができて、人手も足らず新たな使用人が必要だと言うことになり、それでは部屋が必要だと言う話になった。
折も折、それならば和樹の物を処分致しましょうと言うことで、本日に至る。
応接間には渡邊本家と美咲の両親、そして小林家の面々が集っていた。
げびた甲高い笑い声が庭を望む美咲にまで響く。
いやらしい。
なんていやらしいの。
そう思うと同時に美咲の胸はきゅっと苦しくなる。
叔父様のことを心配しようという方は一人もいないのかしら。
なんて恥知らず、と唇を噛む。
応接間に通されるや早々に、美咲はお庭を拝見させて下さいな、と言ってその席を離れた。
美咲の心の内など知りもしない愚鈍な類と一緒に、面白くもないのに面白そうに笑ったり、口の辺りがむず痒くなるようなお世辞を言い合ったりするのが、到底耐えられなかったのだ。
美咲は逃げ隠れるようにして東へ向かって廊下を渡った。
北東の一角に六畳の部屋がある。
細くなった日が障子戸を照らしている。
ここが和樹のいた部屋だ。見覚えのある光景。
美咲は思わず涙ぐんだ。
叔父は来る日も来る日もこの部屋で物静かに書物をしていた。
大人しく、静寂を愛する人だった。その叔父がいた部屋へ続く障子戸は不思議ときらきら輝いているように見えた。
その時またも高い笑い声が美咲の耳に届いた。
その声によって和樹叔父の平安な世界が壊されていくようで、思わずぎゅっと目を閉じ、イヤイヤと首を左右に振った。
あの愚かでなにも分かっていない人たちは、もう叔父様のことなど諦めてしまっているのだ。
お可哀そうな和樹叔父様。薄情な親戚たちに見放されて、どんなにお寂しい想いをしているかしら……。
そう思いながら美咲はこっそり目尻を拭った。



