餘りにも素つ氣なく言つた。
其の言葉が餘りに率直過ぎて、僕の心地は群靑が濃紺に變わつて行く。
其の色の上澄みだけを掬うやうな気持ちで言つた。
例え其れが如何那色でも、今僕が尽くせる誠意は、それ以上も以下もない。
「……忍さんの命には代へられません。
其れに僕は……、忍さんに憧れてゐたのです。
こんなことで忍さんの才能や努力が失われでもしたら、其れは餘りに惜しいことです」
言葉にし乍らも、友情を裏切られたことの痛みをちくりと感ぢる。
不意に忍さんがゆつくりと微笑んだ。何とも優しげでふつと雪が溶ける瞬間のやうな尊さがあつた。
「和樹君」
信ぢて貰へたのだらうか。
確かめるように忍さんの顏を見詰めた。
縛られた痣の附いた右の手頸を忍さんが取つた。
勞わるかのように親指が痣をなでる。
其の痣を確かめるやうに見詰めた儘、忍さんはが言つた。
「俺が好きなのかい?」
上目に顏を上げて僕を見た。
僕が呆けているうちに、もう片方の僕の手を取つて、忍さんが僕を押し倒した。
景色が唐突に後方へ流れていったかと思うと、したたかに殴られた後頭部畳にをぶつけ、痛みに目をつぶった。
次に目を開いたときには、僕の兩手を押し附けた忍さんが、僕をまたいで見下ろしてゐた。
「さうか、分かつた。君、俺が傑さんとしてゐたことが羨ましかつた。
さうだらう? だから僕を傑さんと引き離さうと思つて此那嘘を……」
「ち、違います!」
押さえつけられた手を外さうと力を込めたけれど、忍さんの力は思つた以上に強かつた。
「此那縄の跡迄附ける何て、君つてマゾヒスト體質なのだね」
「忍さん、違う!」
「キスをして慾しいならさう言へば良いのに……」



