氣が附いた時、僕は見知らぬ暗い部屋のベツドにゐた。
起き上がらうとすると、後頭部が痛み、手足が自由にならないことに氣附いた。
縛られてゐる。
闇が一瞬、ぞろりとうねつたかのやうに景色がゆがんだ氣がした。
胃が重くて辛い。
冷たい汗が噴き出した。
それでも冷靜に努めて、闇に慣れて來た眼で當りを見渡した。
如何やら二階の客用寝室にゐるらしかつた。
隣の部屋から聲が聞こへて來る。
隣は薫子の部屋らしい。
「生かしてをけないわ! 薫子を見られたのよ! 此の子を暴いたのよ!」
「殺しは拙(まず)い。彼は忍君のホテルに泊まつてゐるのだ。戻らなかつたら怪しまれる」
「駄目よ、駄目よ! 絶對に駄目。彼は此のことをばらして了ふ。
さうしたら私達は如何なると思ふの? 皆から白い目で見られるわ。好奇の的よ!」
「だからちやんと彼の時死亡届を出しておけば良かつたのだ!
其れを君が、無理に彼(あ)の林(はやし)眞人(まさと)と言ふマリオネツト作家にそつくりな人形を作らせたりするから此那ことになるのだ!」
僕は小さく息を飮んだ。
矢張り薫子は死んでゐたのだ。
つまり僕が見てゐたのは、薫子の靈(れい)だつたのだ。
嗚呼、しかも何と言ふことだらう。
其の祕密を知つた所爲で、僕は今殺されやうと言ふ立場にゐるのだ。
「だから殺せばいいのよ、林眞人と同じやうに!
薫子の骨がすつかり入るやうな絡操人形を作つた後、私が彼を殺し貴方が死體を隠した。
今囘もさうするのよ!」
「彼(あ)れは君が殺して了つたから、やむなく……。
僕は君が其那ことするとは思はなかつたのだ! ああする外に手がなかつた」
「だつて此の子が死んだことを知つてゐる人間が生きてたら如何なると思ふの!
私達は淫らで下品な一族として世間から蔑まれるのよ!」
「嗚呼、さうだらうね! 薫子は君に似たのだ。
若い芸術家を金で買うやうな淫らで下品な、君にね!
梅毒で死ぬ何て! 酷い死に様だつた。早く醫者に診せれば良かつたのだ。
其れを君が體面を氣にして診せやうとはしなかつた!」
「私に似てゐるですつて! 貴方こそ人のことを言へて?
私が知らないとでも思つてるの!
貴方が外丸さんだけでなく忍さんとも陰でこそこそ會つてゐるのを知つてゐるのよ!
汚らはしい! 淺(あさ)ましい男!
恥を知りなさい!」



