返亊はない。
狐につままれたやうな氣分だ。
ふと天蓋(てんがい)附きのベツトに目をやつた。
如何やら位置からすると窓邊に置かれたベツドから薫子は何時も下を見下ろしてゐるらしかつた。
そつとベツドに近づいてみる。
其の時、天蓋のカアテンの間からベツドに横たはる薫子の姿が見へた。
此那處にゐたのかと安堵して近づいて行つた。
「薫子さ……」
ベツドの上の薫子の異變(いへん)に氣附いた。
薫子は眼をパツチリ開けた儘、身動き一つしない。
其の掛け蒲團から出た腕を見て、ぎよつとする。
其の腕は、マリオネツトの腕だつた。
眞つ白の指先から腕は、關節ごとに途切れ途切れの部品になつてゐて、手頸や肘には球體が、其の位置に在つて、一まとまりで腕を成してゐた。
もう一度全體を眺め見て、其れが如何やら夲當に動かない人形だと氣附いた。
何かの惡戯だらうか。
臆病な心臓がとくとくと早まる。
良く見ると、艷々(つやつや)と黑光りする瞳にはガラス玉がはめ込まれ、石膏のやうに眞つ白い顏は耳や頸の當りでお面のやうに途切れてゐた。
脊中に汗がつうと流れた。
はて、僕は夢を見てゐるのだらうか?
其れを確かめる爲に其の面にそつと觸れてみる。
冷たく硬質な感觸が返つて來た。
髪の毛は夲當の人毛だらうか。綺麗に切り揃へられてゐる。
白く塗られた面は、絡操人形のやうに糸で縫い留められてあつた。
だうなつてゐるのだらうと思い、假(か)面(めん)をさうと引き上げてみた。
糸は少しばかり伸縮性があつて、少し力を入れただけで假面がくいと持ち上がつた。
ぴくりと指が強張つて、其の所爲かだうなのか、假面の糸が突然ぷつんと切れた。
假面がぽとり、掛け布団の上に落ちた。
僕の心臓が突如、狂つたやうに啼り出した。
叫び出しさうになるのを何とか堪へた。
外れた假面の中に、マリオネツトの外殻にすつぽりと納まる大きさの、しやれかうべが入つてゐた。
僕は一體何を見てゐるのだらう。
氣を失う直前の時のやうに、身體から力が抜けさうになる。
とてもまずい兆候だ。
僕は首を左右に強く振つて、混乱した思考の手綱を引き締めやうとした。
其の瞬間、頭にがつんと大きな衝撃を受けた。
何が起こつたのか分からない儘氣を失つて了つた。…………



