僕らは親密な視線を交はし合つて、デイナアの席に着いた。
デイナアもまた素晴らしいものだつた。
前菜は季節の野菜と鱈(たら)のテリイヌ。
スウプは金箔の浮かんだコンソメ、伊勢海老のオホロラソホス、仔牛の喉肉(リ・ド・ヴォー)のグリル。
アントルメに杏のソルベ、鶉(うずら)のラウスト、サイドデイツシユにグリル野菜のサラダ、七種のチイズとイチヂクのトルテ、二種のアイスクリイム添え。
どれも利代子夫人の好きなものばかりだと言ふ。
デイナアは和やかに恙(つつが)なく進んだ。
「和樹さん、近々お發ちになると伺いましたけれど、次はどちらを訪ねるご豫定なんですの?」
ゆつたりとした秋色のアフタヌフンドレスを着こなしてゐる牧瀬未亡人。
「もう少し西に行つてみやうかと思つてゐます」
其の時ちらりと視線を感じた。其れは外でもない峰子夫人だつた。
利代子夫人の全く他意のない口ぶり。
「またお戻りになる際には、是非K市に寄つてらしてね」
「はい……」
上辺だけさう答へたけれど、きつと僕の顏色は曇つてゐた。
琴乃さんとのことで忘れかけてゐたけれど、峰子夫人の思惑を何とか阻止せねばならないのだ。
パアテイは円熟の内にお開きとなつた。
忍さんと牧瀬未亡人、そして琴乃さんと共に館を後にしやうとしてゐた。
何の障害もなく此の儘歸れるかと思つた矢先、
「ねえ、和樹さん、申し訳ないのだけど、ご相談があるの。
夲當なら此那遅くにお引き留めするのは心苦しいのだけれど、和樹さんはもう直ぐ此の町を發つて了はれるから……」
峰子婦人が言った。とっさに心の中で身構へた。
「其れなら君、聞いて差し上げるべきだよ。お二人は僕がお送りするから」



