場が良い具合に収まつた頃を見計らつて、僕は一旦琴乃さんと部屋を出た。
五時から始まつたパアテイは此の後デイナアに続く。
長丁場に備へて早めに休憩を取つたのだ。
人が多いといふだけで僕は緊張して了ふのだから夲當に仕方がない。
しかし琴乃さんも無口で物靜かな人だつたので僕には案外丁度良かつた。
紅葉など見に行きませんか。僕らは庭へ出た。
秋咲きの薔薇や可憐な小菊が夕燒けに照らされて揺れてゐる。
屋敷からは港も望める。
K市の夕暮れは他の町と比べてみても格別に美しい。
ただ其れだけでほうと溜息が出る。
「鮮やかな夕日ですね」僕は言つた。
「ええ、さうですね」琴乃さんは躊躇ひがちに応えた。
其の感ぢが氣になつて琴乃さんを見ると、琴乃さんは足元に植ゑられてゐる何かの植物を見てゐたらしかつた。
「其れは何の植物ですか」
「あの……、是れはクリスマスロオズですわ」
「へえ、其れも薔薇ですか」
「いえ、薔薇と言ふ名前が付いてゐますけれど、金鳳花(きんぽうげ)科なんですの。
薔薇もさうですけれど、此の花も大變(たいへん)まめに世話をしなければならないのです。
十二月になれば白や桃色の花が咲きますわ。
此のクリスマスロホズはよく手入れされてゐます」
俄かに驚いて了つた。
大人しさうな琴乃さんが、まるで水を得た様にさらさらと話し出したのだ。
「ガアデニングにお詳しいのですね」
琴乃さんは少しばかり照れたようにうつむいた。
美人ではなかつたけれど、まさに年頃と言ふ年の娘で、其那ふうに乙女らしく恥じらう様子には、素直に好印象を持つた。



