「薔薇の輪舞曲は、二人の靑年の心理がとても繊細に、かつ巧みに描かれてゐて……。
初めは入り込めなかつたんですが、最後には男女の戀(れん)愛(あい)と等しく切ない氣持になりました」
感想を述べると、忍さんが目を上げた。
「其の夲つて、男性同士の愛の話なのかい?」
忍さんの質問は明らかに僕に投げかけられてゐたのに、視線は何故か傑さんを向いてゐた。
違和感を覺へてゐたら、傑さんがさうだよと答へた。
忍さんは急に立ち上がつて、鳥渡失禮と言つて部屋を出て行つた。
少しすると傑さんも煙草を取つて來ると言つて席を立つた。
今度は僕の話題になつた。
「和樹さんは夲當に綺麗なお顏立ちね」
「夲當に。小さい頃は其れはお可愛いかつたでせうねえ」
自分のことが話題になると、恥づかしくてゐられない。
しかも容姿のこととなると女顏をからかはれて育つた所爲で、アレルギイのやうに拒否反應が出て了ふ。
褒められてはゐるけれど、其れは上辺だけで、祖の内心ではからかつてゐるのではないかと疑つて了ふのだ。
「僕も鳥渡(ちょっと)失禮(しつれい)して……」
不浄を理由にそそくさと席を立つた。
立つたついでに、二人が戻る迄と思つて、のんびりとお屋敷の中をうろついてみた。
流石に部屋を開けてみるやうな不躾なことはしなかつたけれど、廊下には美しい彫刻や燒き物や何かが其れこそ美術館のやうに並んでゐた。
僕は時間をかけて一つ一つぢつくり眺めて囘(まわ)つた。
廊下の終はる角部屋に來た時だつた。
忍さんの聲を耳にした。聲は其の角部屋の中から聞こへた。
戻るなら一緒に戻つて來て呉れないかしらと思つて思はず扉に近づいた。
扉が僅かに開いてゐて、聲を掛ける一瞬前に、僕は中を伺つた形になつた。
其の瞬間、息が止まつて了つた。
忍さんと傑さんが抱き合つて、激しく口附けを交はしてゐたのだ。
とつさ扉から離れた。
薔薇の輪舞曲ぢやあるまいし。見間違いだと思つた。
だけど、見間違いでも聞き間違いでもなかつた。



