僕は容姿のことを言つた心算(つもり)だつたのだけれど、其のことについて觸れる機会は訪れなかつた。
お茶會が終はつた處で、峰子夫人に夕食に誘われた。
他の參加者のご婦人方と違つて特に豫定(よてい)もないので厚意に与かることにした。
映畫か何かで見た細長いテエヴルに、眞つ白のクロス、銀の燭臺(しょくだい)、食亊の邪魔にならない香りの弱い野薔薇が低く飾つて有る。
滑りの良いダイニングチエアに案内された。
食亊は南瓜のスウプに始まり、鱸(すずき)のソテエと茸のソホス、合鴨のロホストに胡桃(くるみ)のソホス、秋野菜のサラダ、四種のチイズと栗のデザアトとフルウツ。
ワインは赤と白二種類ずつが出て來た。季節を感ぢる素晴らしいメニユウだつた。
デミダスカウヒイを飮み乍ら僕は滿悦だつた。
お酒も入つたことで緊張も良い具合に解(ほぐ)れてゐた。
氣になつたのは、薫子のことだつた。
「薫子さんはお寂しいですね。此那に素晴らしい食亊を一緒に食べられない何て」
峰子夫人は微笑んだ。
「ええ、さうですの。でも、和樹さんのお陰で寝る前に楽しい時間が過ごせますわ。
私達、毎晩彼の子が眠る迄、三人で今日あつたことを語り合いますの。
彼の子は其れを一番喜びますのよ」
傑さんが続いた。
「和樹君、良かつたらまた誘つてもいいかい?
君は若いのにとても良く夲を讀んでゐるし、君の作品についても聞かせて慾しいな。
然うだ。時に和樹君、アムネス・フリウリングの薔薇の輪舞曲(ロンド)は讀んだかい?
是非君の感想を聞きたいな」
「有り難う御坐います。確か今月の新刊でしたね。僕はまだ……」
「嗚呼、だつたら貸してあげるから持つて歸つて讀むと良い。僕の書斎に案内しやう」



