昨日の日光室は勉強會用に設へが變(か)はつてゐて、參加者は僕以外皆女性だつた。
峰子夫人は椅子を勧めると侍女に紅茶を淹れさせた。
「今、ウイルヘルム‐マイスタアを朗讀(ろうどく)してゐましたのよ。和樹さんはお讀みになりまして?」
「はい……。少し前なのでうろ覺へですけれど……」
部屋の扉は開いてゐた。如何やら昨日と同じくあへてさうしてゐるらしかつた。
勉強會の内容は、順繰りに朗讀してゐつて、時々峰子夫人が此の表現は如何だ、時代脊景(はいけい)からすると此の記述には此那意味があるのだ等と言ふふうに?明するものだつた。
僕にも朗讀の順番が囘つて來て一節讀み終へて顏を上げると、優雅にテイカツプとソホサアを持ち乍ら微笑んでゐる峰子夫人と目が合つた。
夫人は僕の眞正面の席だつた。
峰子夫人は格別美人と言ふ訳ではなかつたけれど、品格と言ふ美德を身に附けた人だつた。
「朗讀がとてもお上手ね。目を閉ぢて聞いてゐたくなりますわ」
たおやかな夫人の様子に僕の頬はかつと熱くなつた。
大したこと等してゐないのに、其那ふうに褒められると心の何處かで得意な氣分になつて了い、其那自分が何だか無性に恥づかしかつた。
參加者を見渡すと誰かしらと目が合つた。
だけれど合うと直ぐに目を逸らされたり意味有りげな微笑みを送られたりした。
忍さんが言つたことは間違つてはゐなかつたやうだ。
其那勉強會が半刻程続くと、休憩にしませうと峰子夫人が言つた。
ポツトには良く磨かれた銀の夲式のケトルから新しい湯が注がれ、可憐なドイリイにあしらはれた三種のメニユウが體よく運ばれて來た。
勧められるが儘に薄いハムとフオアグラのペエストのサンドウイツチや洋酒の効いたサバランを頂いた。
食べた、でなく頂いたと言ふ氣になつて了ふのは、矢張り峰子夫人の風格に依るものが大きかつた。
「やあ、盛り上がつてるやうだね」
開か放たれた扉から現れたのは峰子夫人の夫君傑さんだ。
傑さんは僕の肩に手を置き、黑縁の眼鏡の奥でにこりと笑つた。
「和樹君と言つたね。如何だい、樂しんでゐるかい」



