と其の場に坐り込んで了つた。
十年も閉ぢ込められてゐたので、外に出るのが恐ろしくなつて了つたのだらうか。
出し抜けに加奈が格子の上を指差した。
「彼(あ)のお札が見張つてゐるわ。彼のお札は私が此處から出たら其の場で死んで了ふやうに呪いが込められてゐるの。
駄目だわ、私は此處から出られない。きつと死んで了ふわ」
加奈の指さす方を見上げると、其處に五枚のお札が加奈の手の届かぬ高い位置に貼られてゐた。
思へば牢も其れに合はせて五角形になつてゐる。
賢治は僕に肩車をさせてお札を一枚一枚剥がして行つた。
其のお札には何とも厳めしくも古めかしい文字と陰陽道の五芒(ごぼう)星(せい)が書かれてゐた。
僕はまさか此那ものが効く筈はあるまいと思つたけれど、加奈は幼いうちに呪いの札だと敎へられ、純粹にも其の儘信ぢ込んで了つたのだらう。
其れは彼女の状況を考へれば無理もない話だ。
賢治は剥がしたお札を加奈に見せて目の前で破り裂いた。
「是れで呪いは消へた。加奈、さうだろ?」
すると加奈は安心したのか、何とも形容しがたい笑みを浮かべた。
美麗なのだけれど、何處かぞくつとするやうな微笑みだつた。
光の加減だらうかと、其の時然程(さほど)氣に留めはしなかつた。
加奈は賢治の手に聯(つ)れられて漸く牢を出た。
「いいかい、和兄。
俺達は此の先の墓場に身を隠す。村が騒ぎ出したら呼びに來て呉れよな」
墓場の場所は昼間の内に確認濟みだ。
賢治と加奈の手がしつかり結ばれてゐるのを確認して僕は頷いた。
「分かつてるよ。賢治、加奈さん、氣を附けて」
僕は手筈通り鋸と鉈を囘収(かいしゅう)して、直ぐに其の場を立ち去つた。
其の時、加奈の口元がまたちらりと光つた。
色つぽい微笑みに僕はどきりとした。
だけど、此の時氣附くべきだつたんだ。
其の時もう月は雲に隠れて光を失つていた。
光つたのは唇ではなかつたのだ。
翌日豫想通り外は雨降りだつた。
其れも夕立のやうな大粒の激しい雨。
しかもなかなか上がらず、二人が濡れて心細くなつてやしないかと心配になつた。
きつと賢治なら間違ひなく加奈をしつかり守り乍ら、強く励ましてゐることだらうとさう思つた。
其の雨の所爲で、賢治と僕の計畫は豫定よりも遅れた。
しかも、其れは僕らの豫定してゐた展開とは全く違つてゐた。
どんよりした空。
ピシヤンと啼つて霹靂(へきれき)が走つた。
「おおい、たいへんだあ!」



