其の夜少し風があつた。
其れ迄煌々と輝いてゐた月は丑三つ時を過ぎると筋のやうに雲が掛つた。
明日は雨が降るかも知れない。
賢治と僕は境内に入り込むと、昨日と同じやうに蝋燭を燈した。
密かに持つて來た鋸(のこ)や鉈(なた)は僕の手の中にある。此れを持つて歸つて元有つた場所に戻すのも僕の役目だ。
「キヌタ様」
奥の戸板を開けるとキヌタ様もとい加奈は靜かに其處に坐つてゐた。
加奈は驚いたやうな顏をした。
「まあ、今日は一體如何なすつたの」
「キヌタ様。いや、加奈。俺達、加奈を此處から出してやる爲に準備して來たんだ」
賢治が勇んで言ふと、加奈は戸惑つたやうに細い指を揃へて兩手を口元に當てた。
僕らは直ぐに手近な格子に鋸を當てた。
確かに格子は簡單に斷(た)つことが出來た。
もしかしたら加奈のやうな女の身でも體當たりすれば破れたかも知れないと言ふ程にあつけなかつた。
賢治がひよいと格子を潜つて加奈に手を差し伸べた。
「さあ、行かう」
加奈は怯へたやうに頸(くび)を振つた。
「此那ことをしてはいけないわ。村の人達に怒られて了ふ……」
「大丈夫。俺が附いてる」
賢治少年はなかなか立派に男らしかつた。
「でも……」
「明日、村人達全員に此のキヌタ神社の偽りを暴いてやらう。
大丈夫だよ。俺が加奈を守る」
加奈は愈々(いよいよ)賢治の傍に寄つて其の手を取つた。
しかし格子牢を出る目前になると、
「嗚呼、矢つ張り駄目!」



