あの時も、この地味な部屋の前廊下から庭を眺めて、美咲は和樹と並んで座っていた。
その愛くるしい容貌から美咲は小林の家の者に可愛がられた。
小林家に行く度に、お菓子を和樹と二人分用意してもらい、日の陰った静かなその庭先で、ゆっくりお茶を飲むのが和樹も美咲も好きだったのだ。
美咲が記憶しているその日は、雪が一尺程積った大変寒い日で、淹れたてのお茶はこの部屋の前に運んで来られるまでにすっかりぬるくなっていたのを覚えている。
「寒いの」と言った美咲を、和樹は自分の懐に包むようにして抱いてくれた。
ぬるくなったお茶を両手で抱えてちびちびと飲みつつ、和樹叔父のぬくもりの中でどこか悦に酔っていた。
美しい叔父を独り占めしている自分に酔っていたのだ。
渡邊の本家には美咲の五つ上と三つ上に男児がいたが、照れ隠しか好意の裏返しか美咲をからかっては泣かせるばかりだった。
一方の和樹はそんな粗野な従兄達と違って美咲を守ってくれる兄のようだった。
しかも美咲にはこの上なく優しく甘かった。
美咲の我がままも笑って許してくれた。
和樹は若く美しく、そして美咲のどんな願いも聞いてくれた。
そんな麗しい叔父を従順にして独り占めできるのは自分だけだ。
そう思うと、幼いながらにいつも嬉しくて堪(たま)らなかった。
和樹叔父は言った。
「美咲ちゃんは大きくなったら飛び切りの美人になるよ」
「ほんと?」
叔父の腕の中で上体を捻って和樹を仰ぎ見た。
美咲の頬と鼻先は寒さで朱に染まっていた。
叔父は明るい茶色の瞳を優しく細め、互いの吐く息は幻想的にたゆたって消えていく。
日陰の侘しい雪の庭は、まるで音を失ったようにシンとしていた。
「美咲ちゃんの唇はさくらんぼうのように可愛いもの」
美咲の唇に和樹が人差し指をそっと押しつけた。
その瞬間、美咲は叔父に恋をしたのだ。
それは秘密の出来事だった。
今まで誰にも話したことはない。



