埃を気にしながら、叔父の使っていた文机の前に置かれた赤銅色の座布団に座った。
そのひやりとした感触を感じた途端、急に胸が苦しくなった。
この部屋を訪ねると必ず、和樹叔父は藍色の着物を少し着崩してここで何か書き物をしていた。
その隣に腰を下ろして、美咲が何を書いてるのと尋ねると、いつも苦笑いを浮かべていた。
叔父の書いた作品が有名になることはなかった。
そればかりか、自分の書いた書き物が文芸雑誌や同人誌に載っても、幼い美咲に読ませるのをひどく渋った。
和樹がいない時こっそりと読んでみたことがある。
覚えているのは何でもないような男女恋慕の話だった。
美咲が些かぎょっくりとしたのはそこに描かれていた官能的な成行きだったが、その当時幼い美咲がようよう理解するには至らなかった。
探せばその冊子もどこぞから見つかるだろう。
その時解らなかった内容が、今の美咲にはもう少しばかり理解できるように思われた。
只今は、そんなことはどうでもよく、積み重ねられた古紙の山から探す気にはならなかった。
美咲はここへ来てみて思う。
和樹叔父がいない。
いない。
いないのだ……。
その事実がゆるゆると、しかし確実に美咲の胸を締め付けた。
――美咲は信じない。
美咲は父様や母様のように……、伯父様たちのようには諦められない。
あの優しくて美しくて健気でいらした叔父様がいなくなってしまったなんて。
美咲は信じない……。
……まさか、まさか死んでしまったなんて……信じられるわけがない……。
蝉の鳴き声を背に、涼しい座布団の上でひしと握り拳を作っていた。
気がつくと、視界は涙で霞(かす)んでいた。
ぽつんと小さな音を立てて雫が文机に跡を付けた。
それがまるで合図だったかのように、美咲の目の前に和樹叔父との想い出が噴き出すように思い出された。
ありありと和樹叔父の顔が、声が、匂いが、感触が浮かんでくるようだった。
その感覚に、美咲の身体中は震えるように疼(うず)いた。
美咲は和樹に恋をしていたのだ。
胸の中が悶(もだ)えるようにうねった。
想い出が蘇る。
美咲ははっきり記憶している。
和樹叔父は美咲をうんと可愛がってくれた。



