その頃、皇后の住まいである紅閨宮の客室では雲朔の出立を聞いた亘々が悲しみに暮れていた。

「新婚なのに戦地に行かれるなんて大家は酷いです~」

 半泣きで私に愚痴ってくる。

部屋には紅閨宮付きの女官が一同に集まっていた。

泣きたいのは私の方なのだけれど、立場上そうもいかず、静かに座して局丞からの報告を聞いた。

「そもそも敵が尸鬼ってなんですか。尸鬼って存在するんですか。何者ですか尸鬼って。どうやって倒すんですか」

「うるさいわよ、亘々」

 私は冷静に諫めた。まあ、昨夜、同じようなことを言って雲朔を怒らせてしまったので、強くは言えない。なるほど、雲朔もこんな気持ちだったのか。たしかにこれは地味に苛々する。

「雲朔は皇帝として務めを果たしに行ったの。民を守るために」

 私は膝の上で両手を握りしめた。

 不安がないわけじゃない。むしろ不安しかない。

 人間が尸鬼に勝てるのか。雲朔は無事に帰ってくるだろうか。