惑わし総長の甘美な香りに溺れて

「でさ、目覚めたとき目の前にいたのが啼勾会の会長・甲野英明(こうのひであき)なんだ。甲野の話では、俺はあいつの手足としてSudRosaを率いてこの南香街禁止区域とNの管理をしているって」


 記憶の無い陽にはそれが本当なのかも分からなくて、甲野に従うしか無かったんだって。

 自分の立ち位置がわからなくて、不安で、どう考えても悪い人間にしか見えない甲野だったけれど、他に頼りに出来る相手がいなかったって……。



「だから今もSudRosaの総長として……甲野の手下として働いてる」


 なんでも無いことのように淡々と話す陽だけれど、その目には色んな感情が揺らめいているように見えた。

 もしかしたら、今もその不安はなくなっていないのかもしれない。

 確かな自分というものがないから、どう振る舞えば良いのかもハッキリしない。

 そういうことなのかもしれない。


「でもな、甲野を完全に信用してるわけでもない。だから、薔薇姫のこと――モモのことは黙ってた」

「あ……」


 薔薇姫という単語が出てきて、そういえばここに連れ込まれたのはその話をするためだったと思い出す。

 自分で質問しておきながら、薔薇姫のこと忘れかけてた。