惑わし総長の甘美な香りに溺れて

「っはぁ……」


 色っぽいため息を吐いて離れた陽は、ニヤッとワルい笑みを浮かべる。


「俺をこんなに惚れさせて、ワルい女だな、モモは」

「も、もう!」


 ついさっきまでかわいい陽だったのに、ほんのり危険さを匂わせる陽に変わってしまう。

 どっちも好きではあるんだけれど、振り回されそうで怖い。


「かわいかったり、危なかったり……どっちが本当の陽なの?」

「どっちだと思う?」

「へ?」


 確かな答えが返ってくるとは思わなかったけれど、まさか聞き返されるとは思わなかった。

 陽はからかうような笑みを浮かべつつ、かわいく見える黒い目を少し悲しげに細める。


「俺もわかんねぇんだ。本当の俺って、どんな人間だったのか」

「え?」

「記憶が無いんだ、二年前から」

「え……」


 突然のカミングアウトに言葉が出ない。

 どういう反応をすれば良いのかも分からなくて、ただ陽の話を聞いた。



「何があったのかもわかんねぇ。ただ、目を覚ましたら記憶が無かった」


 生活する分には問題なかったけれど、周囲の人の記憶や、それまで自分がどういう風に過ごしていたのかとかまったくわからなかったと話す。

 お義母さんのことも記憶になかったから、今もよそよそしい雰囲気になってるって聞いて、納得した。

 反抗期かと思っていたけれど、そういう理由だったんだ。