惑わし総長の甘美な香りに溺れて

「これでも本気で藤沼に感謝してるんだ。藤沼がNとかいう香りのこと知っててくれたから大事にならなくて済んだんだ。だから、藤沼が黙っててくれって言うなら絶対言わねえよ」

「そ、そっか……」


 思いがけず真剣な様子にちょっと戸惑ってしまう。

 だって、私はたまたまNの存在を知っていただけ。

 知っていたからもしかしたらって思い当たっただけで、その後も情報通りに救急車を呼んだだけだ。

 ここまで感謝されるようなことをしたとは思えない。


「……やっぱりモモ、Nのこと知ってたんだ?」


 加藤くんの態度にちょっと困っていると、隣からいつもより少し低い声が聞こえる。

 どことなく危険さを含んだ声に陽を見上げると、彼はいつもの人なつっこい笑みを浮かべて加藤くんに話しかけた。


「本当にN使われてたんだ? あいつら、どこでそんなもの入手したか言ってなかったか?」

「え? あー、ちょっと記憶が曖昧だけどさ、確かSudRosa? とかいうチームのメンバーから貰ったとか言ってたような……」

「ふーん、そっか。あんがと」


 答えた加藤くんに礼を言いながら、陽はスッとその黒い目に氷のような冷たさを宿す。

 でもすぐに明るくてかわいい陽の表情に戻る。

 よく見ていると所々で危険な陽が出てきてる。

 今までもこんな風だったのかな?

 なんて思いながら陽を見つめていると、今度は加藤くんが陽に質問しだした。


「なんでそんなこと聞きたいのかわかんねーけど、俺も陽に聞きたいことあったんだよな」

「ん? なんだよ?」

「陽さ、サッカー部入らねぇ?」


 ニカッとスポーツ少年の明るい笑顔を浮かべた加藤くん。

 それを正面から見ていた陽は、ニッコリ太陽の笑みを向けながら答えた。


「ぜってー入らねぇ」