「ありがとう。最近不安なことがあったから、これでリラックスできるわ」


 受け取って笑みを浮かべた景子を見て良かったって思う。

 自分を偽ってることで心配させてしまっている私だけれど、こんな風に景子の役に立つことができたから。


「ジャスミンをメインにして景子の好きなライムの香りも加えたんだ。結構自信作――」

「わぁ! あれ、あのままゴールしちゃうんじゃない⁉」


 すっかり和やかな雰囲気になっていつもの調子で香りのことを語ろうとしたら、すぐ近くにいるクラスメートの騒ぐ声に遮られてしまった。

 何なの? とちょっと不満げに見ると、彼女たちは窓の外――校庭の方を見ていて……。

 そのまま原因を探るように私も校庭に顔を向けて、見えた金の髪に目が釘付けになってしまう。


「あ、陽……」


 さっき友達に誘われて外に出た陽が、丁度今サッカーボールをゴールに向かって蹴ったところだった。

 ボールはディフェンスの男子をすり抜け、まっすぐゴールへと吸い込まれていく。


「わっ! あれ陽くんだよね? 運動得意だって聞いたけど、サッカーも得意なんだ?」


 私と同じように陽を見ていた景子に聞かれる。

 でも陽がサッカー得意なことを私も今知ったから、「そうみたいだね」としか答えられない。