一段目のチェストを開け、思いだしたものを取り出す。

 縦二十センチ、横と奥行きが五センチくらいの両手に乗るほどの大きさの鉄製の箱。

 上下と四隅の角以外はガラスになっていて、中に青紫の液体が入っている筒状の容器が見える。

 これは、二年前にある男の子から預かったものだ。

***

 二年前、お父さんの仕事の取引先が主催するパーティーがあって、パートナーが必要だからって私が付き添いで行った。

 正装するからって、ウィッグをつけずに行ったから、目立ちたくなかった私はほとんど休憩室に一人でいたんだっけ。

 休憩室にも美味しそうな料理や飲み物は用意されていたから、あれはあれで楽しかったかな。

 そうして人目を気にせず飲み食いしていたら当然のようにトイレに行きたくなっちゃって……。

 用を済まして休憩室に戻ろうとしたとき黒髪の男の子とぶつかったんだ。


 誰かに追われているみたいだったからとっさにかくまっちゃって。

 でも男の子を探している人たちは諦めそうになくて……。

 それで、これを預かったんだよね。


『あいつらの狙いはこれなんだ。でも、なにがなんでも渡すわけにはいかなくて……悪いけど、預かってくれないか?』


 長い前髪から覗く黒い目が必死そうに私を見つめてた。

 だから預かったんだけれど……行き帰りの車は外の様子が見られないように窓の部分が黒塗りになっていて、あのパーティー会場がどこだったのかがわからなかったんだ。