香りに導かれるように入ってしまった南香街の禁止区域は、予想していたものとは違っていた。

 もっと荒れ果てているのかと思っていたのに、人がいないということ以外はちゃんと整備された普通の街だ。

 人影は見えないけれど、生活している人がいるのか電気がついている建物もあるし出入り口も荒れていない。

 逆にどうして禁止区域になっているのか疑問になるところだ。


 気にはなるけど……それよりも陽はどこに行ったんだろう?


 人も見当たらないから誰かに聞くことも出来ない。

 中に入ってしまったら陽の薔薇の香りも霧散してしまって、香りをたどるということも出来なかった。

 仕方ないので周りを見ながら恐る恐る足を進める。

 すると静まりかえった街中に突然ガンッと壁を蹴るような音が響いた。


「んだよ! 何で連絡つかねぇんだよ!」

「せっかく手に入ったってのに、女調達出来なきゃ意味ねーじゃん」


 聞き覚えのある声にそちらを見ると、近くのホテルのような建物から私と同じ高校の制服を着た男子が三人ほど出てくるところだった。


 あいつらって、加藤くんの悪友の……。

 なんで、こんなところに? と思うと同時に引っかかりを覚える。


 Nで操られていた加藤くん。

 彼らに何かの香水を嗅がされてから言いなりになったと言っていた。

 そして、Nが作られているという噂のある南香街の禁止区域にこいつらがいるってことは……。