着いたのは大きな立入禁止の看板が掛けられたフェンスの前。

 まさか、ここを飛び越えて行っちゃうとか?

 なんて思ったけれど、陽はフェンス沿いに右の方へと歩いて行く。

 林に隠れた方へ向かった陽を慌てて追いかけたけれど、見失ってしまった。


「どこに……? こんなところまで来て帰ったってことはないだろうし……ん?」


 フェンス沿いに進んでいくと、人が出入りするためのフェンスドアがあった。

 しかも、取り付けられている鍵は開いている。

 もしかして、ここから中に入った?


「……」


 中に入ってみて陽を探すか、引き返して帰るか。

 賢い選択肢は帰ることだ。

 きっと、今ならまだ危険な目に遭わずに帰れる可能性が高い。

 それが、分かっていたのに……。


 ふわっと、陽が通った軌跡のように薔薇の香りがした。

 私が好んで使っている爽やかなタイプのものじゃない。

 Nのような、スパイシーさが際立つ独特の香りでもない。

 いつも陽から香ってくる、薔薇らしい甘いゴージャスな香り。


 その香りを感じた途端、ほとんど無意識に私はフェンスのドアをくぐっていた。