惑わし総長の甘美な香りに溺れて

 景子は女子をキッと睨むと「私はこいつの彼女よ!」と宣言した。


「えー? なにそれー。チワゲンカとか巻き込まれるの嫌なんですけどー。……もうなえた」


 一気に冷めた様子の女子はそのまま去って行く。

 景子も文句を言いたいのは女子より加藤くんの方みたいで、去って行く彼女にはもう目を向けていなかった。


「……で? 何か言い訳ある? これで浮気してないとか嘘だよね?」


 低く震えている声は怒っているからなのか。それとも、泣きたいのを我慢しているからなのか。

 何にせよ、加藤くんを睨む目は潤んでいた。


「なんだよ、つけて来てたのか? 別に浮気じゃねぇよ。健太たちに頼まれたから女見繕ってただけだっつーの」

「な、に……それ?」

「ったく、どうしてくれんだよ。あいつらに女の調達頼まれてんのに……いや、そっか」


 悪びれもないどころか邪魔されたと不満そうだった加藤くんは、何かを思いついた顔をして胸ぐらをつかんでいる景子の腕をつかんだ。


「そうだ、イイ女いるじゃん」


 と、景子を見下ろす。

 なに、それ?

 まさか、景子をあの健太とかいうガラの悪い奴らに引き渡そうとしてるの?