惑わし総長の甘美な香りに溺れて

「ごめん、今日はちょっと用事が出来ちゃったんだ。先に帰っててくれる?」

「えー? まあでも仕方ないか、そんな日もあるよな」


 不満そうに軽く唇を尖らせた陽だけれど、すぐに理解を示してくれた。


「じゃあ俺も自分の用事済ませてくるよ」

「ああ、そういえばやることがあるとか言ってたっけ?」

「ん、それ」


 昨日話していたことを思い出して聞くと頷かれる。

 一緒に帰れないこと、ちょっと申し訳ないなって思っていたから陽にも用事があるなら良かった。

 内心安堵していると、陽は少しかがんで私の耳元に顔を寄せる。


「じゃあ、今日のぎゅーは夜にな?」

「っ⁉」


 誘うように囁かれて、一気に顔に熱が集まった。

 夜に、とか。なんか……いやらしい!


「なっなっ、は、はる⁉」

「ははっ! まあそういうことで、またあとでな」


 テンパる私を見て満足げな笑みを浮かべた陽は、ひらひらと手を振りながら先に帰って行った。