「今度ちゃんと埋め合わせするから。じゃあな」

「うん、また明日ね」


 ひとまずケンカすることなく話がついてホッとする。

 でも、朝はあんなに思い詰めて泣いてたのに……アッサリ送り出して良かったのかな?

 ちょっと心配で、私は片手を軽く振りながら加藤くんを見送っている景子に近づいた。


「景子、いいの? アッサリ引き下がってたけど……」

「……いいわけないでしょ?」


 声を掛けた途端ピタッと動きを止めた景子。

 口元は笑みの形を保ったままだけど目が笑っていない。

 これは、完全に怒ってる。


「悪いんだけど、萌々香。今日ちょっとこれから付き合ってくれない?」

「え?」

「久斗の後をつけて、本当のところ街でなにをしているのか確かめたいの」


 私に向き直った景子は真剣な顔だった。

 加藤くんへの怒りはあるみたいだけれど、その感情にまかせて無謀なことをしようとしているわけじゃないと分かる。


「で、でも……街って南香街のことでしょう? あんまり治安も良くないって言うし……」

「うん、分かってる。でも、確かめたいの」

「景子……」


 その真剣さに説得するための言葉を失う。

 南香街は昼間でもガラの悪い人たちが歩いてる様な場所だ。

 夜には特に行くなって言われている街。


 それに、あの街には知る人ぞ知る噂がある。

 私もたまたまネットで見つけた噂だけれど、万が一本当だったら……。