「……はぁ、やっぱ良い匂い。何だろうな? 爽やかな花の香り? でも甘さもあるみたいな?」

「ちょっ、そんなに嗅がないで」


 抱きしめられているだけでも恥ずかしいのに、匂いを嗅がれるとかもっと恥ずかしい。

 いくら誰も見ていないからって、これ以上は私が無理だ。


「ホント、もう離して?」


 軽く陽の胸を押しながらお願いする。

 けれど、陽は「もうちょっと」と甘えるように言って私の背中を撫でた。


「ひゃっ! ちょと、ダメだってば!」

「……モモ、感度いいんだ?」

「へ?」


 くすぐったいようなぞわぞわした感覚に驚いて、陽の小さな呟きは聞こえなかった。

 なんて言ったの? と聞こうとしたけれど、陽はパッと私を離す。


「ん、今日はこれくらいにしとく」

「今日はって。学校でももちろんダメだけど、家では良いなんて言ってないからね?」

「えー? でも俺、最低でも一日一回はモモにぎゅうーってしたいんだけどなー?」

「うぐっ」


 かわいい。

 形の良い眉がハの字になり、黒い目は寂しそうに少し潤んでる。

 そのまま小首を傾げた様子はまるでワンちゃんがクゥ~ンと鳴いているようにも見えて……。