惑わし総長の甘美な香りに溺れて

「それにもっと広い場所で南香薔薇を栽培する予定で、元々この街は捨て置くつもりだったからな。お前たちも共に捨て置いたとしても変わらん」


 私たちに語っているように見えるけれど、自分に言い聞かせている部分もあるのかもしれない。

 そうやって甲野は自分の中で折り合いをつけているのかも。

 そう思わせる言葉だった。


「ただし、花は貰っていく」

「分かった……陽も、いいよな?」

「……ああ」


 陽は悔しげだったけれど、Sも捨てられてしまった以上そうするしかないと思ったのか頷く。


「後で人を手配しろ。今日のところは戻るぞ」

「は、はい」


 話しは終わったとばかりに甲野は手下たちに指示を出す。

 男たちに車椅子を押され、私たちの横を通り過ぎ部屋を出て行った。

 それを見送ると、笙さんが私たちの近くに来て声を掛ける。


「俺も色々と後始末してくる。陽はちょっと休んどけ……あとで、話したいことがある」

「ああ、そうだな。俺もお前にはたっぷり文句を言いたい」


 真剣な様子で告げた笙さんに陽は笑って返す。

 その様子から、陽はきっと笙さんのこと恨んではいないのかもしれないと思った。

 笙さんもそれを感じ取ったんだろう。

 泣きそうに顔を歪ませて「わかった」と部屋を出て行った。