惑わし総長の甘美な香りに溺れて

***

「どういうことなんだよ!? 三川さん!」


 禁止区域に入り、陽との思い出でもあるホテルにさしかかったとき。

 いつもはまったく人の姿がない街中に、大勢のガラの悪い男の人たちの姿があった。

 彼らは背の高い一人の男性に掴みかかり詰め寄っている。


「総長が……陽さんが裏切り者とかどういうことだって聞いてんだよ!?」

「っ!」


 陽の名前に、彼らを警戒して道の隅に隠れるように寄っていた私はハッとする。

 よく見たら、なんとなく見覚えのある人たち。

 何より、詰め寄られている長身の男性は笙さんだった。


「啼勾会の大事な商品であるNを作れなくしようとしたんだ。裏切り者で合ってるだろ?」


 淡々と話す笙さんは無表情で、なにを思っているのかわからない。

 でも、彼らの会話のおかげで状況が少しは理解出来た。

 やっぱり陽は失敗したんだ。


「でも、だからってなんで俺たちが陽さんを見つけて啼勾会に突き出さなくちゃなんねぇんだ!?」

「SudRosaが、啼勾会の下部組織だからだよ」


 SudRosaの人たちが陽のことを探すよう命令されたってところなのかな?

 だとしたら、少なくとも陽は捕まってないってことだ。

 二年前のように追われている最中なのかもしれない。


「早く合流しないと」


 呟いて、焦りが募る。