惑わし総長の甘美な香りに溺れて

「わかった、一人で行かねぇよ。だから、Sを返してくれ」

「……うん」


 陽の意思を確認した私は、頷いて二段目に入れてある青紫色の液体が入った容器を取り出して渡す。


「ちゃんと持っててくれてありがとな」


 優しい笑顔でお礼を言った陽は、受け取ったばかりのSを何故かベッド脇の鏡台に置いた。


「陽?」


 どうして置いたんだろうと不思議に思っている間に、陽の纏う雰囲気が変わる。

 かわいい陽じゃない。

 でも、ゾクリとするような怖さのある危険な陽とも違った。

 あえて言うなら、とても甘ったるい……妖艶な陽。


「あの、陽? どうしたの?」


 黒い瞳の奥に妖しい炎が見えた気がして、聞きながらつばを飲み込んだ。


「どうしたって……保健室で言っただろ? 続きはあとでって」

「っ! そ、それ、今するの? 下にお父さんたちいるのに」


 真面目な話をし始めたから、続きをするっていうのは私の勘違いだと思っていたのに。


「気づかれるようなことはしないって、キスだけ。ずっと我慢してたんだ……真面目な話も終わったし、いいだろ?」


 甘えるような口調でねだる陽はかわいい陽なのに、雰囲気は妖しくて惑わされそう。

 ちょっと待って欲しくて、近づいてくる陽の肩を軽く押すと保健室のときのようにその手を掴まれた。

 手のひらに触れるだけのキスをした陽は、射るようなほどに真っ直ぐ私を見る。