惑わし総長の甘美な香りに溺れて

「良かった……返してくれるか?」

「うん、もちろんだよ」


 答えて、私はあの青紫色の液体を入れてあるチェストへ向かう。

 でも途中でふと思いついたことがあって振り返った。


「あ、でも一人で使おうとか思わないでね? 行くなら私も一緒に行くから」

「え……?」


 一人で行こうと思ってたのか、陽は困惑気味に眉を寄せる。

 やっぱり言っておいて良かった。


「なに言ってんだ? 二年前だって危険だったんだ。モモを連れてなんか行けねぇよ」

「危険だからだよ。もしまた見つかったら、今度は記憶を消されるだけじゃすまないかもしれないでしょ?」


 そんな危険があるのに、陽一人だけで行かせる訳にはいかない。


「それは……でも、俺が記憶を取り戻したことは知られてない。なにも知らないフリをして薬を使えば――」

「心配なの! ……お願い。一緒に行くって約束してくれなきゃ薬は返さないよ」


 私が一緒に行ったからって、役に立つかはわからない。

 むしろ足手まといになるかもしれない。

 それでも、一人で待っているなんて出来なかった。


「モモ……」


 困らせてるのはわかってる。

 でもこれだけは譲れないって意思を込めて私は陽の黒い目を見つめた。

 戸惑いに揺れる目が一度閉じられて、ふぅーと長く息を吐く。

 そして諦めの笑みを浮かべた陽は、ゆっくり頷いた。