惑わし総長の甘美な香りに溺れて

「薔薇姫が持っているっていう啼勾会にとって重要なものってのがさ、Nの原料である南香薔薇って花から催眠作用のある成分だけを消してしまえる薬だったんだ」


 そうして、陽は二年前のことを話してくれた。

 南香薔薇を研究していた父親のこと。

 Sを使おうと思って禁止区域に入ったら、見つかって追われてしまったこと。

 私と出会って、Sを預けたこと。

 笙さんにNを使って記憶を消されたこと。


「そう、だったんだ……」


 あの黒髪の男の子が陽だったなんて……。

 髪の色も今と違うし、もっと幼い顔してたから……まず同じ歳だとは思ってなかった。

 それに、笙さんのことも。


 アイコンタクトで意思を伝えられるくらい信頼関係があると思っていたけれど、陽の記憶を消したのが笙さんだったなんて……。

 三白眼の大人っぽい落ち着きのある笙さんの姿を思い出す。

 陽のことを話したとき、一瞬見せた悲しい目。

 あれは、もしかしたら陽の記憶を消したことを苦しんでいる目だったのかもしれない。


 陽も、辛いんじゃないかな?

 今の話を聞いた限りでも、結構仲の良い幼なじみだったみたいだし。

 心配もあるけれど、どう声を掛ければ良いのかわからなかった。


「モモ……あのときモモに預けた薬、今も持ってるか?」

「あ、うん。もちろんだよ」


 とても必死そうに預かって欲しいって言われたもの、勝手に捨てられるわけない。