惑わし総長の甘美な香りに溺れて

「続きはあとで」

「っ!」


 私の耳元に顔を寄せた陽が、薔薇の甘ったるい香りを強めて囁いた。

 落ち着きかけた心臓がまた大きく鳴って、本当に困る。

 顔が熱くなるのを感じながら、私は「わかったから」と返した。

 すると陽は妖しく目を細めて意味深な笑みを浮かべ、私の手を離す。

 その表情はちょっと危ない雰囲気があって、いつものかわいくいて危険な陽だなと安心する。

 さっきまでの甘すぎる陽はなんだったんだろう?

 疑問に思うけれど、お義母さんがこっちに向かってきていたから聞くわけにもいかなかった。


「陽? ここにいるの?」

「ああ」


 私より先に陽が返事をする。

 カーテンを開けて入ってきたお義母さんは、陽を見てホッと一息ついた。


「あ、萌々香さんもここにいたのね。連絡くれてありがとう」

「いえ、家族ですし」


 まだどう接するのが正解かわからない部分もあってちょっとよそよそしいけれど、少しずつ距離を縮めている最中なんだからこれでいいよね?


「そうね」


 微笑んだお義母さんは、少し悲しそうな目をしている。

 チラッと陽の方を見ていたから、血の繋がった家族である陽にもよそよそしい態度を取られているからかな、と思う。

 陽は記憶が無いから仕方ないことなんだろうけど……。