「でも、心配だよ」

「ん、悪ぃ。心配かけて」


 素直に謝ってくれたことで、少し安心する。

 私は傷を包んだハンカチをしっかり結んで、上に手を乗せた。


「早く治りますように」


 手当て――手を当てることで得られる癒やし効果が少しでもあると良いなと思いながら、祈るように願う。

 小さい頃私がケガをするとお父さんがよくしてくれた。

 お母さんが家を出て行って、寂しくならないようにってよく頭や肩に手を当ててくれた。

 あの安心感を陽にも感じて欲しくて、願いを込める。

 とはいえずっとこのままでいるわけにもいかない。

 ちゃんとした治療をするために保健室に行かなくちゃ。


「陽、保健室に――陽?」


 顔を上げて陽に保健室へ行こうと伝えようとしたけれど、なんだか様子がおかしい。

 見上げた陽は、見開いた目で私をジッと見つめていた。


「陽? どうしたの?」


 手を伸ばして、片手で陽の頬を包む。

 すると陽の目が更に見開かれた。


「モモ?……そうだ、この匂い――っく!」

「陽!?」


 何かを呟いて、陽の顔が辛そうに歪む。

 頭に手を当てて「痛ぇ……」と小さく呟くとそのまま私に倒れ込んできた。


「は、陽!?」


 陽の体を支えられなかった私は一緒に地面に倒れ込んでしまう。


「陽、陽!」


 何度呼び掛けても返事はない。

 さっきのケンカでも頭を打ったようには見えなかったけど……。

 何が起こったのかわからないまま、私は意識のない陽の名前を呼び続けた。