とても。
とても強い薔薇の香りがした。
月明りの下。
真逆の太陽みたいな髪色を夜風に遊ばせて、彼は私を見る。
昼間はその名前の通り明るい表情をしているかわいい顔は、同じ笑顔だというのに昏く淀んでいる。
「……陽?」
まるで別人としか思えなくて……否定してもらいたくて、名前を呼んだ。
けれど……。
「あーあ、見られちゃった」
笑顔の質は違うのに、彼はいつもと同じく無邪気に話しながら私に近づいて来る。
「でもいっか。こっちの俺を知られたんなら、もう抑える必要ないしな」
白い頬に散った返り血は血桜の花吹雪のようにすら見え私の心を騒がせる。
欠けた月を背後に私を見下ろす陽は、恐ろしいほど美しい高雅の笑みを浮かべていた。
陽、今のあなたが本当の姿なの?
普段のあなたは偽りなの?
瞠目する私は声にならない問いかけと共に焼けつくような思いを胸に宿す。
むせかえるような薔薇の香りが私を惑わしているとしか思えない。
だって、恐怖しか感じないはずの陽の笑みに――どうしようもなく惹かれるのだから。
とても強い薔薇の香りがした。
月明りの下。
真逆の太陽みたいな髪色を夜風に遊ばせて、彼は私を見る。
昼間はその名前の通り明るい表情をしているかわいい顔は、同じ笑顔だというのに昏く淀んでいる。
「……陽?」
まるで別人としか思えなくて……否定してもらいたくて、名前を呼んだ。
けれど……。
「あーあ、見られちゃった」
笑顔の質は違うのに、彼はいつもと同じく無邪気に話しながら私に近づいて来る。
「でもいっか。こっちの俺を知られたんなら、もう抑える必要ないしな」
白い頬に散った返り血は血桜の花吹雪のようにすら見え私の心を騒がせる。
欠けた月を背後に私を見下ろす陽は、恐ろしいほど美しい高雅の笑みを浮かべていた。
陽、今のあなたが本当の姿なの?
普段のあなたは偽りなの?
瞠目する私は声にならない問いかけと共に焼けつくような思いを胸に宿す。
むせかえるような薔薇の香りが私を惑わしているとしか思えない。
だって、恐怖しか感じないはずの陽の笑みに――どうしようもなく惹かれるのだから。