喧嘩中の相手と接する気まずさ。同い年の異性と二人きりの気まずさ。
 その二つの意味を含めて尋ねてみたのだが、クリムは平然とした様子で返してきた。

「別に、ただの仕事上の協力関係ってだけだから。ショコラと二人きりでもなんとも思わないよ」

「……ふ、ふぅーん」

 改めてクリムの口からそれを聞けたのは、なんだか安心できるけれど……
 うーん、それはそれでムカつくような気がする。
 別にクリムに意識してもらいたいとか、そういう気持ちがあるわけじゃない。
 ただ、これでも一応私は女の子なのだから、異性としてまったく意識されていないとなると悔しい思いが込み上げてくる。
 女の子として見くびられているというか、舐められているというか。
 ちんちくりんだったクリムのくせに。

「あぁ、そうですか。まあクリムはもう立派な爵位付きの宮廷錬成師だから、たくさんの令嬢様ともお近づきになって、色々と大人らしい交際をしてるんでしょうね」

「はあっ!?」

 半分冗談、半分そうなんだろうと思って言ってみたけれど……
 クリムは予想外にも前のめりになって、強めに返してきた。

「そんなわけないだろ! だって僕はずっと……!」

「……?」

 ずっと……?
 瞬間、クリムはハッとした様子で口を閉ざす。
 次いでこちらから視線を逸らすと、何かを誤魔化すように無造作な銀髪を掻いてこぼした。

「な、なんでもない」

 いったい何を言いたかったのだろうと不思議に思ったが、私はそれ以上追及することはしなかった。
 それからクリムは、隣の部屋に続いている扉を開けて指で示す。

「いいからもう寝なよ。明日は朝早くから手伝いをしてもらうつもりなんだから。腹ごしらえと湯浴みがしたかったら使用人にでも聞いてくれ」

「そういえば私って、明日から具体的にどんな手伝いすればいいの? 簡単な素材採取とかって言ってたけど、クリムの代わりに何か採ってくればいいのかな?」

「いいや」

 てっきり代わりに素材採取をしてくればいいのかと思っていたけれど、そうではないらしい。
 じゃあ私はいったい何を……? と思っていると、不意打ち気味に衝撃のことを伝えられた。

「初めはそのつもりだったけど、ショコラには錬成の方の手伝いをしてもらおうと思う」

「えっ……」

「今日の試験結果を見て気が変わった。ショコラには王国騎士たちが使う“傷薬”の錬成を任せる」

「き、騎士たちの傷薬!?」

 なんか、いきなりとんでもない仕事を任された。