「くそっ、何がどうなっているのだ……! なぜ今までのような性質が出せなくなったのだ……!」

 ある日を境に錬成物に特別な性質が宿るようになり、自分が錬成師として覚醒したのだと思っていた。
 これこそが自分の中に宿されていた、錬成師としての才能だったのだと。
 ナスティ家相伝の称号を授からなかった代わりに、自分には隠されていた力があると確信していたのに。

『ナスティ家は妹のフランに継がせる。【早熟の錬成師】の称号を授からなかった無能はさっさと出て行け』

 錬成師の名家に生まれながら、家のほとんどの者が授かっている称号を自分は授かることができなかった。
 錬成術の上達が極めて早くなる、錬成師にとってとても重要となる称号――【早熟の錬成師】。
 それを授かれなかったババロアは家を追われ、代わりに次期当主に選ばれた妹に対して計り知れない憎悪を抱いた。
 だからババロアは、自分でアトリエを開き、そこで錬成師としての才能を示して次期当主の座を奪い返すつもりでいた。
 その波にようやく乗れたと思った矢先に、粗悪な錬成物ばかりしか生み出せなくなり、アトリエは失墜の危機に立たされている。

「俺は、無能なんかではない……! ナスティ家を背負って立つのは、この俺だ……!」

 諦め切れないババロアは、原因を探るべくひたすらに錬成術を繰り返すことにした。
 きっと何度か錬成術をやっているうちに、あの感覚を取り戻せるはずだと。
 そのために作業場に赴き、素材棚の方に歩いて行くと……
 そこに一つの素材を見つめて、不意に脳裏に一人の少女の顔が浮かんだ。

(あれは……?)

 一週間ほど前にアトリエから追い出した、素材採取係のショコラが採取して来た素材。
 炎鹿(ブレイズバンビ)の角だ。
 五本使う予定だったのだが、一本は依頼がキャンセルされたため素材が残ったままだったのだ。
 ということを思い出したババロアは、頭に引っかかりを覚えて眉を寄せる。
 自分の不調が始まったのが一週間前。素材採取係のショコラを追い出したのが一週間前。
 奴が採取して来た素材もすぐに使い切り、それからは他の職人や徒弟たちに集めさせた素材で錬成をしている。

(偶然か……? いやだが、もしかしたら……)

 ババロアは一つの可能性に辿り着き、棚に置いてある炎鹿(ブレイズバンビ)の角に手を伸ばした。