『なに言ってんの? 私たちなにも言ってないよ?』
『聞き間違いじゃない? 変な難癖(なんくせ)つけないでよ』

 って逆ににらまれちゃったんだ。
 そんな風にとぼけられたらもう何も言えない。
 モヤモヤとした不満が残るだけで、紗香にまであんな気持ちを味わってほしくない。

「それよりほら、なんか楽しい話ししよ? 紗香と話していればあんなの気にならないからさ!」

 本当は少しは気になるからちょっと無理してるけど、明るい気持ちになりたくて話題を変えた。

「そう?……あ、そういえば」

 紗香はちょっと不満そうだったけど、何かを思い出したのか自分のスマホを取り出す。

「さっき『ラブベリー』のサイト見てみたんだけどさ。莉緒はこういうのに出さないの?」

 紗香は小説は読まないけれど、私が投稿(とうこう)してるからってたまに『ラブベリー』のサイトを見てるみたい。
 スマホを操作して見せられたのは、『ラブベリー』サイト内のコンテスト詳細(しょうさい)ページ。
 数日前から開催(かいさい)された『ラブキュン短編コンテスト!』のページだ。

「うーん、興味はあるんだけどさ。まだそういうのに出せるレベルじゃないと思うんだよね」
「そうなの? 試しに出してみるとかはしてもいいんじゃない?」
「でも、自信ないから……もう何作品か書いてからにしたいかなって」
「そう?」

 不思議そうにスマホ画面を見ながら首を(かし)げる紗香に私は困り笑顔を向ける。

 ……自信なんて、あるわけないよ。
 人気作家なはずの美乃梨ちゃんですらコンテストでは最終選考に進んだことないって聞いたもん。
 ランクインどころか、読んでくれる人もまだまだ少ない私がコンテストなんて……まだ早いって。

 ……でも、そう思っていたのは私だけだったみたい。