クスノキの歌姫

 ――図書室でも行こうかな。

 図書室は、ひとりぼっちでいても、他人の視線が気にならない。

 教室を出て、うつむきがちに廊下を歩いていると――。


「あっ……」


 向かい側から歩いてきた男子二人のうち、ひとりが声を出して、すれちがいざまに足を止めた。


「……?」


 いぶかしく思って顔をあげると。

 花宮くん!

 いつも通り、学ランのホックをはずして、ズボンのポケットに両手をつっこんだ花宮くんが、わたしを見下ろしている。
 
 花宮くんはポケットから手を出して、首の後ろをさすった。


「……あのさ、昨日は悪かったな。急に声かけたりして……」

「うっ……」


 だれもいないと思って、自由に歌ってた自分を思いだし、かあっと、頬が熱をおびる。


「あの……べつに……気にしてませんから……」


 消え入りそうな声で、なんとかそれだけ言って、歩きだそうとしたら。


「あっ、ちょっと待ってよ!」


 花宮くんに必死に呼び止められてしまった。


「おい、樹生、先に行ってるぞ」


 花宮くんといっしょにいた男子が、ふり返りながら言った。