クスノキの歌姫

「パパ……ママ……」


 わたしが小学二年生のときに交通事故で死んでしまったパパとママが、このクスノキの下に眠って……いるわけではなく……。

 もちろんお墓は別にあるけれど、遠い場所にあるから、なかなか行けない。


 ――このクスノキの下で、ママはパパと出会ったのよ。


 成長するにつれ、両親の記憶がうすれていくなか、ママが教えてくれた【ふたりの出会い】はしっかりと覚えていて。

 同い年だけど、市内の別々の高校に通っていたパパとママは、このクスノキの下で出会ったらしい。

 家族でこの公園にくるたび、ママはその話をするものだから、パパは照れくさそうに笑ってたっけ。

 ここは、両親にとって、とても大切な場所なわけで……。

 だから……。

 両親の思い出がつまった、このクスノキが、天国にいるふたりと、わたしをつないでくれているような気がして……。

 今も、こうして通っては、話しかけたりするの。

 だけどね……今日ばかりは泣きそうになって、うまく話せないよ。


「……伐採(ばっさい)……しちゃうんだって……。この木……」


 公園内に公民館を建設するのに邪魔だからって、このクスノキを伐採する――。

 今朝、クラスメイトで親友の香村萌(こうむらもえ)ちゃんから、その情報を聞いて、目の前が真っ暗になった。