クスノキの歌姫

「どうしたらいいの?」
 
 ぽつりとつぶやくと、秋風が吹いた。

 強い風に、わたしの長い髪と、セーラー服の(えり)がゆらめく。


 それは、もはや習慣になっていたのだけれど。

 足しげく通う場所が、わたしにはあった。

 家から歩いて五分で行ける大楠(おおくす)公園――。

 市内でも一番大きな公園で、市民の(いこ)いの場になっているんだよ。


 わたし――咲真(さくま)芽衣(めい)には、お目当てがあって……。


 それは、公園の片すみにそびえ立っている巨大な一本のクスノキ!

 樹齢は四百年を超えるそうで、その存在感はさすが。

 幹はとっても太くて、大人四人が両手をつないでも、とどかないんだって!

 気のむくままのびているような枝には、目にあざやかな緑の葉。

 暑い夏場なんかは、木陰になってひんやりするから人があつまるけれど、今みたいに肌寒い秋になると、あまり人はやってこない。

 子どもたちは遊具に夢中だし、散歩コースからも外れた場所だから。


「わたしには何もできないよ。……ごめんね」


 こうしてクスノキに語りかけても、だれかに聞かれる心配もなかった。