――――気がつけばライサと息子は二人、物言わぬ者らの中で取り残されていた。王族と兵士たちだったモノだ。
少女の姿はない。どうにかこの先で幸いを得てくれればと、ぼんやりとした頭で思う。
誕生祭の参加者は、城外へと逃げ出した者もいれば震えて隠れていた者、混乱が混乱を招いて暴動が起きていた気配もあったが、今は沈静化している。
エフレムは誰かの手により玉座に腰掛けた状態であったけれど、王太子は誰かの手によりその命を絶たれていた。
このような状況下でも神たる国王へは手を出す国民はいないのかとおかしく思ったが、一瞬口の端で笑うと、ライサはこの場に残った者たちへと向き合う。
ライサのドレスは騒動の中で擦り切れ、薄汚れている。それでも皆は壇上で自分たちを見下ろす王族から発される言葉を、息をひそめて待っていた。
並び立つ息子のマルクは人々を見渡し、母親へと頷く。ライサは頷き返し、場を委ねるべく一歩、二歩と後退する。
「此度の騒動により、王位は余が継承することとなった」
マルクはライサが少女と交わした言葉を知らないはずであったが、彼は自身の役割を心得ていた。
昔からそうだ。特別何かが秀でているわけでなくエフレムに軽視されていたものの、空気を、状況を読んで立ち振る舞うことが出来た。だからこそ、腹違いの兄弟姉妹より劣る底辺王子と蔑まれながらもここまで生き長らえてこられた。



