王は断罪し、彼女は冤罪に嗤う

 胸元に手を当てたナタリアは、悲しみに濡れた紫の瞳を伏せた。

 ライサの記憶では、クリスティーナの生家であるルグル公爵家は今も存在している。しかしクリスティーナの死後も王家とともに在った。反抗的な視線ひとつないままに。

 貴族であるか平民であるかというよりはそれぞれの家の方針であるのかもしれない。しかし貴族が一様にギスギスしているのは確かだ。平民は生活こそ苦しくとも、だからこそ支え合わねば生きていけないのかもしれない。それは、王妃として生きてきた日々で何度となく考えたことでもある。

 そして、それを知り得る状況に落としたのは自分だ。あの日の断罪劇がなければ、公爵令嬢が己の生きてきた環境を冷たいと感じることはなかったのかもしれない。
 まさか時を超えて突きつけられるとは予想だにしなかったが、いつか罰が下るかもしれないとは頭の片隅にあった。今日がその日なのだろう。

「わたくしの命では不足でしょうが、そして願う立場にないと理解しておりますが、」

 ライサは正面から向き合い、ナタリアと間近に目を合わせる。