王は断罪し、彼女は冤罪に嗤う

 声にならない声で問いかけたライサに「さあね」と華奢な肩がすくめられる。

「あなたはあなたのことを考えた方がいいのではなくて、王妃様?」

 言われるまでもない、ライサとて自分が何をしているのか誰より困惑している。クリスティーナであるように思えて仕方のないこの少女が真実そうであるなら、エフレムを除けばライサにとってこれ以上ない爆弾だというのに。

 ライサは何かを言おうとするものの、言葉にならずに押し黙る。
 数瞬見つめ合う。〝聖なる力〟は象徴である紫の瞳を通して効力を生み出すと、説明はされずともこれまでの人生で理解していた。
 つまりこれは危険な状況だろう。しかし逸らそうとは思わなかった。それこそがその力の一端なのかもしれないけれど。

 ナタリアが薄く笑ったかと思うと、小さく首を傾げた。

「……私にはもう帰るところがございません」

 つぶやくような声の不穏な静けさに、ライサは知らず息を呑む。

「仲の良い家族がいる、と、」
「少し拒んだだけで両親は殺されました」
「…………ッ」
「私の家族はもうどこにもいません。絶対的支配者たる国王の望みとはいえ、一人娘を奪われまいと、……平民とはこんなにあたたかいものなんですのね」