王は断罪し、彼女は冤罪に嗤う



「……こっちへ」


 算段など何もなかったが、彼女を逃がさなければ、湧き上がったその思いだけに突き動かされた。

 ドレスの長い裾が邪魔で令嬢時代に着古していた、それこそナタリアが着ているようなワンピースが恋しくなった。飾り立てた頭も重い。

 すべてとは言わずとも自分で求めてたどり着いた場所だというのに、着崩れることも髪が乱れることも化粧がどうなっているかもなりふり構わず逃げ出す日が来るなんて。それも手を引く相手が、可愛い我が子ではなく見も知らなかった少女だなんて。

 逃げおおせられるとは考えていなかった。ただ身体が動いただけで。
 それでも存外人波を押し退けて進んで行くことが出来た。おそらくはナタリアの瞳が有する能力によってのことだろう。立ちはだかるはずの兵士が一睨みでまるで味方のように振る舞い、兵士同士でぶつかり合った。

「まさかあなたに助けられようなんてね」

 物陰に身を寄せ追っ手が通り過ぎて行けば、少女が低く笑い出した。

「あなたは……」

 クリスティーナ様なの?