「エイリル、少しだけ昔話をしても良いか?」

「え・・・・?」

「本当はまだ話すつもりはなかったのだが、今の君の笑顔を見たらあの時を思い出してしまった」

グレン殿下は私の手をもう一度ぎゅっと握る。


「エイリル、君は私に会ったことを覚えていないと言ったね。それは、当たり前だ。だって、私は【一度も君と話していないのだから】」

「昔、王宮で行われていたお茶会に君は招待されていた。そこで君はいつも笑顔で人に接していた。しかし、幼い君を利用しようとする貴族も多かった」

「そこで私の父・・・・国王は君を呼び出し忠告をした。「君を利用しようとするものもいる。注意した方が良い」とね。私は偶然その場を見ていたんだ。幼い娘にとっては難しい話だったが、国王はきっとフォンリース公爵家自体を信頼していたのだろう」

「君は「ご心配ありがとうございます」と微笑んだ。「どうかこれからもご忠告して下さると嬉しいです。私の立場で誰かに騙されることは、家族だけでなく国民にまで迷惑をかけてしまいます。私、それだけは絶対に嫌なのです」と続けた」

「国王は君に「君を騙そうとした人間を処罰する」と仰った。他にもその者には余罪があったようだ。だから、君にも証言して欲しいと述べた。君は小さく頷いたよ」

「ねぇ、エイリル。君は優しい人間だ。しかし、ただ優しいだけじゃない。自分の大切なものや大事なものが明確に分かっている人間だ。そして、そのものを守るためなら、きっと厳しい判断だって出来る」

「それでもね、その時の君は震えていたんだよ」

グレン殿下が私と目を合わせ、微笑まれる。