切神が先に言っていた通り、この果物を植えた翌日には他の食物たちがぐんぐん育っていた。
カブも大根もふっくらと太り、いい食べごろだ。

「これなら芋も育ててみたらいいかもしれませんね」
カゴ一杯にカブと大根を収穫した薫子が満足気に言う。

「薫子の好きにすればいい」
切神が縁側からそう声をかけたときだった。

石段を上がってくる足音が聞こえてきて薫子は視線を向けた。
庭からでは境内の様子がよく見えないが、二人分の足音であることがわかった。

また村人たちがお参りしに来たのだろう。
盗賊騒ぎが収まってからも、こうしてお参りにくる人は耐えない。

薫子が表に回って誰が来たのか確認してみると、そこには知った顔があって思わず「あっ」と声を上げていた。
お参りにやってきていたのは千桜と冴子のふたりだったのだ。

ふたりとも野良仕事の途中でやってきたようで、仕事用の着物が汚れている。
「薫子!?」
声に気がついて振り向いたのだ千桜だった。