「はい」
引き戸が少し開いて顔を出したのは菊乃だ。

菊乃は寝間着姿の相手が薫子だとはすぐにわからなかったようで、怪訝そうな顔を浮かべる。
薫子が少しだけ顔をあげて見せると、すぐに息を飲む音が聞こえてきた。

「薫子!?」
思わず声が大きくなる菊乃に、薫子が「しっ」と人差し指を立てた。
菊乃は心得たように頷き、すぐに薫子を家に上げてくれた。

薫子は今年のはじめに両親をなくしているので、今はこの家でひとり暮らしだ。
土間では川魚が焼けている最中で、囲炉裏では米がクツクツと音を立てている。

懐かしい、村の香りにホッと胸をなでおろした。
「薫子、あなたどうしたの?」

囲炉裏の前へと促しながら菊乃が目を丸くして聞いてくる。
「神様と喧嘩をして出てきたの」

薫子は囲炉裏の前に両手をかざして温まりながら簡単に説明をした。