「薫子、こっち!」

友人に手招きされて茅葺屋根の裏手へと逃げ込んだのは赤毛を持つ18の女だった。
名前は薫子と言う。

「菊乃っ!」
「しっ」

民家の裏手に隠れていた菊乃がとっさに人差し指を立てて静かにするように促す。
薫子は神妙な表情で頷いて菊乃の隣に腰を落とした。

山に囲まれた小さな村では数日前から盗賊が姿を現し、好き勝手に荒らし回っていた。
村の若い男たちが斧やカマを持って追い立てれば一旦は山の中へ引き返すものの、村から完全に遠ざかることはなかった。

盗賊たちはこの村が気に入ったようで、連日のように山から下りてきては民家や厩に入り込み悪さを繰り返す。
女子供が見つかればそのまま連れて行かれる可能性があるので、薫子も菊乃も、昼もろくに出歩くことができなくなっていた。

どうしても外へ出るときには二人以上でいること。
村の長から言われたことをちゃんと守って買い物へ出たところ、盗賊と出くわしてしまったのだ。

民家の裏へ逃げ込んだふたりは耳を済ませて大通りの様子を伺った。