お口をへの字に曲げて前髪をかきあげた遊雅様は、ふん、とお顔を背けながらこちらに歩いてくる。
観念していただけたらしい。
私もくるりと体を反転させて、遊雅様をお車まで誘導した。
「三男でどうせ家を継ぐこともないのに、どうして僕にメイドなんかつけるんだか…」
後部座席に乗りこんだ遊雅様は、窓枠に頬杖をついた。
押し殺すように、「好きにさせろよ」とつぶやく声が聞こえる。
眉根は寄せられていて、蠱惑的なその視線はスモークガラスの外に向けられていた。
私は真ん中を空けて、遊雅様と同じ後部座席に乗り込む。
「先ほどは主人ぶっていたのに、変わり身の早いお口ですね。…お願い致します」
運転手の方に声をかけると、九条家のお車が動き出した。
「お前もなかなかの口じゃないか。年下らしいところを見たと思ったのに」



