【SS】それは、無自覚な愛情。

 さんざん、“なにを言われても無感情、お前はふてくされた子供みたいだ”と言われたのを挽回するために、あらゆる感情を表現する練習をしたかいがある。




「そういうわけですので、お引き取りください。さぁ遊雅様、帰りましょう」


「っ、お前いつの間にそんな技を…!」




 くっとお顔を歪めた遊雅様の視線もなんのその。

 例え遊雅様が私の珍しい姿におどろいただけとは言え、女性というのは些細な変化に想像を膨らませるものだから、これで勘違いしてくれるだろう。

 表情を戻して前を見ると、遊雅様に手を離された女性は私たちを交互に見て、「し、失礼しますっ」と走り出して行った。




「あ…!くそっ、メイドなら主人の邪魔をするな」


「私の雇い主は九条(くじょう)家ですので」