「どう?今晩。一緒に月でも見ない?2人だけの、特別な場所でさ…」




 栗色の髪を一束掬い上げて、小首を(かし)げながら微笑(ほほえ)む。




「は、はい♡」


「――遊雅(ゆうが)様、今晩は大旦那様とお食事のご予定がございます。行きずりの女性とお遊びになっている時間はございませんよ」


「げ、お前…」




 カツン、とブーツの踵を鳴らしてお2人の横に立つと、遊雅様の端正なお顔が私に向いた。

 なだらかな曲線を描く垂れた瞳は、茶色と緑色が混ざった、(はしばみ)色。

 曰く、それは蠱惑(こわく)的な視線で…抗える女性はいないのだとか。




「お迎えに上がりました、遊雅様。お車は用意してございます」


「…あぁ、ごめんね。彼女は置いておいて、僕たちは行こうか」


「あ…」